東京地方裁判所 平成7年(ワ)20095号 判決 1998年7月24日
原告
寒梅酒造株式会社
右代表者代表取締役
鈴木和子
右訴訟代理人弁護士
吉村仁
被告
鷹正宗株式会社
右代表者代表取締役
神屋直邦
右訴訟代理人弁護士
有賀信勇
主文
一 被告は、別紙被告標章目録1ないし3記載の標章を、清酒又はその包装に付してはならない。
二 被告は、清酒又はその包装に別紙被告標章目録1ないし3記載の標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入してはならない。
三 被告は、清酒に関する広告、定価表又は取引書類に別紙被告標章目録1ないし3記載の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。
四 被告は、原告に対し、一四七八万八〇四〇円及びこれに対する平成七年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙被告標章目録1ないし10記載の標章を、清酒、模造清酒若しくは清酒以外の日本酒又はその包装に付してはならない。
2 被告は、清酒、模造清酒若しくは清酒以外の日本酒又はその包装に別紙被告標章目録1ないし10記載の標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入してはならない。
3 被告は、清酒、模造清酒若しくは清酒以外の日本酒に関する広告、定価表又は取引書類に別紙被告標章目録1ないし10記載の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。
4 被告は、原告に対し、二八〇九万七二七六円及びこれに対する平成七年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の商標権を有している。
(一) 登録番号 第四五二五六号
登録年月日 明治二四年三月一六日
商品の区分 第三八類(旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)一五条による区分)
指定商品 清酒
登録商標 別紙原告商標目録一のとおり(以下、この登録商標を「原告商標一」という。)
(二) 登録番号 第三八〇三五六号
登録年月日 昭和二四年一二月二〇日
商品の区分 第三八類(旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)一五条による区分)
指定商品 清酒
登録商標 別紙原告商標目録二のとおり(以下、この登録商標を「原告商標二」という。)
(三) 登録番号 第一〇一〇六八三号
登録年月日 昭和四八年四月二六日
商品の区分 第二八類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令一条別表による区分)
指定商品 清酒
登録商標 別紙原告商標目録三のとおり(以下、この登録商標を「原告商標三」という。)
2 被告は、業として、平成二年一〇月から、別紙被告標章目録1ないし3記載の標章のうち一又は複数を付した清酒(ただし、この中には、被告標章目録4又は5記載の標章を付した清酒もあった。)の販売を開始し、これらの販売を平成七年二月一〇日まで継続し、同年三月ころから、別紙被告標章目録6ないし10記載の標章を付した清酒を販売している。
3(一) 原告商標一の要部は、「寒梅」という文字を毛筆により書いた部分であり、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(二) 原告商標二の要部は、「寒梅」という文字を毛筆により書いた部分であり、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(三) 原告商標三は、「寒梅」という文字を毛筆により書いたものであり、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
4(一)(1) 被告標章目録1記載の標章(以下「被告標章1」という。)は、毛筆により、「筑後の国」という文字を小さく書き、「寒梅」という文字を大きく書いたものである。
被告標章1のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからしても極めて目立つ部分であり、また、「筑後の国」という部分は、産地、販売地名を表示するところ、商標に含まれる地名部分は、真実の産地、販売地を表示していないこともあるから、産地、販売地名の部分は、自他商品の識別機能を有せず、被告標章1の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章1は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章1を対比すると、原告商標一の要部と被告標章1の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章1は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章1を対比すると、原告商標二の要部と被告標章1の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章1は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章1を対比すると、原告商標三と被告標章1の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章1は同一であるか類似する。
(二)(1) 被告標章目録2記載の標章(以下「被告標章2」という。)は、毛筆により、「筑後の国」という文字を小さく書き、行を改めて「寒梅」という文字を大きく書いたものである。
被告標章2のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからしても極めて目立つ部分であり、また、「筑後の国」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章2の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章2は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章2を対比すると、原告商標一の要部と被告標章2の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章2は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章2を対比すると、原告商標二の要部と被告標章2の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章2は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章2を対比すると、原告商標三と被告標章2の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章2は同一であるか類似する。
(三)(1) 被告標章目録3記載の標章(以下「被告標章3」という。)は、毛筆により、「筑後の国」という文字を小さく書き、行を改めて「寒梅」という文字を大きく書いたものである。
被告標章3のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからしても極めて目立つ部分であり、また、「筑後の国」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章3の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章3は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章3を対比すると、原告商標一の要部と被告標章3の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章3は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章3を対比すると、原告商標二の要部と被告標章3の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章3は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章3を対比すると、原告商標三と被告標章3の要部は、いずれも毛筆により書かれた「寒梅」という文字であり、これらの外観は類似しており、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章3は同一であるか類似する。
(四)(1) 被告標章目録4記載の標章(以下「被告標章4」という。)は、ほぼ正方形の枠の中に、「筑後の国」という文字を小さく書き、行を改めて「寒梅」という文字を大きく書いたものである。
被告標章4のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからしても極めて目立つ部分であり、また、「筑後の国」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章4の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章4は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章4を対比すると、原告商標一の要部と被告標章4の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章4は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章4を対比すると、原告商標二の要部と被告標章4の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章4は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章4を対比すると、原告商標三と被告標章4の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章4は同一であるか類似する。
(五)(1) 被告標章目録5記載の標章(以下「被告標章5」という。)は、「筑後の国 寒梅」という文字を活字により書いたものである。
被告標章5のうち、「筑後の国」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章5の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章5は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章5を対比すると、原告商標一の要部と被告標章5の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章5は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章5を対比すると、原告商標二の要部と被告標章5の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章5は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章5を対比すると、原告商標三と被告標章5の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章5は同一であるか類似する。
(六)(1) 被告標章目録6記載の標章(以下「被告標章6」という。)は、「筑後の寒梅」という文字を、毛筆により書いたものである。
被告標章6のうち、「筑後の」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章6の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章6は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章6を対比すると、原告商標一の要部と被告標章6の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章6は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章6を対比すると、原告商標二の要部と被告標章6の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章6は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章6を対比すると、原告商標三と被告標章6の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章6は同一であるか類似する。
(七)(1) 被告標章目録7記載の標章(以下「被告標章7」という。)は、毛筆により、「筑後の」という文字を書き、行を改めて「寒梅」という文字を書いたものである。
被告標章7のうち、「筑後の」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章7の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章7は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章7を対比すると、原告商標一の要部と被告標章7の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章7は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章7を対比すると、原告商標二の要部と被告標章7の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章7は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章7を対比すると、原告商標三と被告標章7の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章7は同一であるか類似する。
(八)(1) 被告標章目録8記載の標章(以下「被告標章8」という。)は、毛筆により、「筑後の寒梅」という文字を書いたものである。
被告標章8のうち、「筑後の」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章8の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章8は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章8を対比すると、原告商標一の要部と被告標章8の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章8は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章8を対比すると、原告商標二の要部と被告標章8の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章8は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章8を対比すると、原告商標三と被告標章8の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章8は同一であるか類似する。
(九)(1) 被告標章目録9記載の標章(以下「被告標章9」という。)は、ほぼ正方形の枠の中に、「筑後の」という文字を書き、行を改めて「寒梅」という文字を書いたものである。
被告標章9のうち、「筑後の」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章9の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章9は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章9を対比すると、原告商標一の要部と被告標章9の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章9は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章9を対比すると、原告商標二の要部と被告標章9の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章9は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章9を対比すると、原告商標三と被告標章9の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章9は同一であるか類似する。
(一〇)(1) 被告標章目録10記載の標章(以下「被告標章10」という。)は、「筑後の寒梅」という文字を活字により書いたものである。
被告標章10のうち、「筑後の」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章10の要部は、「寒梅」という部分である。被告標章10は、右要部により、寒梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じる。
(2) 原告商標一と被告標章10を対比すると、原告商標一の要部と被告標章10の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章10は同一であるか類似する。
原告商標二と被告標章10を対比すると、原告商標二の要部と被告標章10の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章10は同一であるか類似する。
原告商標三と被告標章10を対比すると、原告商標三と被告標章10の要部は、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章10は同一であるか類似する。
(一一) 以上によれば、被告標章1ないし10は、いずれも原告商標一ないし三と同一であるか類似する。
5 被告は、原告商標一ないし三の指定商品である清酒のみならず、清酒の類似商品である模造清酒又は清酒以外の日本酒に、被告標章1ないし10を使用するおそれがある。
6(一) 被告は、平成二年一〇月から平成七年二月一〇日までの間に、被告標章1ないし3のうち一又は複数を付した清酒(ただし、この中には、被告標章4又は5を付した清酒もあった。)を販売し、その販売額合計は、七億三九四〇万二〇〇〇円である。
(二) 原告は、原告商標三を付した清酒を販売しているので、被告の右商標権侵害行為によって損害を被り、その額は、被告が右行為によって得た利益額と推定されるところ、被告が右行為によって得た利益の額は、販売額の3.8パーセントに当たる二八〇九万七二七六円である。
(三) 原告商標一ないし三の使用許諾料は、販売額の四パーセントであるから、被告による右(一)の清酒の販売についての使用料相当の損害の額は、販売額の四パーセントに当たる二九五七万六〇八〇円である。
7 よって、原告は、被告に対し、商標法三六条一項、三七条一号に基づき、被告標章1ないし10を、清酒、模造清酒若しくは清酒以外の日本酒又はその包装に付すこと、清酒、模造清酒若しくは清酒以外の日本酒又はその包装に被告標章1ないし10を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入すること、清酒、模造清酒若しくは清酒以外の日本酒に関する広告、定価表又は取引書類に被告標章1ないし10の標章を付して展示し、又は頒布することの各差止めを求める。
また、原告は、被告に対し、平成二年一〇月から平成七年二月一〇日までの原告商標一ないし三の侵害につき、民法七〇九条、商標法三八条一項に基づき、被告が受けた利益相当の損害として二八〇九万七二七六円の支払を求め、予備的に、商標法三八条二項に基づき、使用料相当の損害である二九五七万六〇八〇円の一部請求として二八〇九万七二七六円の支払を求めるとともに、右損害額に対する不法行為の後である平成七年二月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)ないし(三)の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3(一)ないし(三)の主張は争う。
4 同4(一)ないし(二)の主張は争う。
原告商標一及び原告商標二は、独特の書体による文字と図柄から構成される極めて特異な外観を有しており、また、原告商標三は、文字のみからなるが、その文字は、独特の書体によるものである。これに対し、被告標章1ないし6は、いずれも文字のみから構成され、しかも、被告標章1ないし3は、ごくありふれた書体によるものであり、被告標章4は、図案化された外観に特徴があり、被告標章5は、活字体で横書きされたものであり、被告標章6は、普通の草書体によるものであるから、被告標章1ないし6は、原告商標一ないし三とは、外観が全く異なっている。
酒類にあっては、地域地区の表示は、商品を区別するための重要な部分であるので、「寒梅」に地域地区の表示である「筑後」を付せば、その標章は、もはや原告商標一ないし三と類似することはない。
寒梅に地域地区の表示を付した標章は、「越乃寒梅」を初め多くのものが酒類に用いられている。
これらのことからすると、被告標章1ないし10は、原告商標一ないし三とは、類似しない。
5 同5の事実は否認する。
6(一) 同6(一)の事実は認める。
(二) 同6(二)の事実は否認する。
被告は、原酒仕込み及び仕入れの合理化、紙パックの導入、販売網の拡大と販売経路の合理化等によって価格を低廉化するとともに、宣伝広告をするなどの営業努力をすることによって、被告の製品を販売してきたものであるから、被告が得た利益全額を原告の損害と推定することはできない。
(三) 同6(三)の事実は否認する。
7 同7の主張は争う。
理由
一 請求原因1(一)ないし(三)、同2の事実は、当事者間に争いがない。
二1 原告商標一は、略正方形の上辺部分に松の枝を線描きした図形が描かれ、右辺部分に竹を線描きした図形が描かれ、右両図形に挟まれるようにして、右上から左下へ、毛筆により、「寒梅」という文字が独特の書体により大きく書かれているものである。
原告商標一のうち、図形部分は、松及び竹のデザインとしてありふれたものであり、取引者需要者の注意を殊更に引くものではないのに対し、文字部分は、その大きさ、位置からして、原告商標一の中で目立ち、取引者需要者に強い印象を与えるから、「寒梅」という文字部分が、原告商標一の要部であると認められる。
原告商標一は、その要部から、寒梅すなわち寒中に咲く梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じるものと認められる。
2 原告商標二は、全体の形状が、横が縦よりも長い長方形であり、地に、花を付けた梅の木、竹の葉、松の枝葉などが描かれており、その中央に、大きく、梅花の形に白抜きがされ、その白抜きの中央付近に、右上から左下へ、毛筆により、「寒梅」という文字が独特の書体により大きく書かれており、その文字の下方に、片仮名により、右から左へ、一行で「カンバイ」と小さく横書きされているものである。
原告商標二のうち、図形部分は、松、竹、梅のデザインとしてはありふれたものであり、また、日本酒等のラベル類の構成として、中央に商品名を書き、その周りに図形を描くという構成はごく普通にみられるものである。これに対し、「寒梅」という文字部分は、その大きさ、位置等からして、取引者需要者に強い印象を与えるものであるから、「寒梅」という文字部分が原告商標二の要部であると認められる。
原告商標二は、その要部から、寒梅すなわち寒中に咲く梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じるものと認められる。
3 原告商標三は、「寒梅」という文字を毛筆により縦書きしたものであり、寒梅すなわち寒中に咲く梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じるものと認められる。
三1(一) 被告標章1は、「筑後の国」という文字を毛筆による行書体により縦書きし、その下に続けて、「筑後の国」の各文字の四倍ほどの大きさの文字により、「寒梅」という文字を、毛筆による行書体により縦書きしたものである。
被告標章1のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからして極めて目立つ部分であり、被告標章1に接した取引者需要者は、「筑後の国」という部分は捨象して、「寒梅」という部分によって商品を識別することが多いものと認められるから、「寒梅」という部分が被告標章1の要部であると解される。そうすると、被告標章1は、その要部により、寒梅すなわち寒中に咲く梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章1を対比すると、原告商標一の要部は、独特の書体によるものであり、外観において被告標章1の要部と異なるところがあるものの、双方の要部は観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章1は類似するものと認められる。
原告商標二と被告標章1を対比すると、原告商標二の要部は、独特の書体によるものであり、外観において被告標章1の要部と異なるところがあるものの、双方の要部は観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章1は類似するものと認められる。
原告商標三と被告標章1を対比すると、原告商標三と被告標章1の要部は、いずれも毛筆により書かれたものであり、書体に若干の違いはあるものの、外観において類似するものと認められ、観念及び称呼を同じくするから、原告商標三と被告標章1は類似するものと認められる。
2(一) 被告標章2は、「筑後の国」という文字を毛筆による行書体により縦書きし、行を改めて、その左に、「筑後の国」の各文字の四倍ほどの大きさの文字により、「寒梅」という文字を、毛筆による行書体により縦書きしたものである。
被告標章2のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからして極めて目立つ部分であり、被告標章2に接した取引者需要者は、「筑後の国」という部分は捨象して、「寒梅」という部分によって商品を識別することが多いものと認められるから、「寒梅」という部分が被告標章2の要部であると解される。そうすると、被告標章2は、その要部により、寒梅すなわち寒中に咲く梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章2を対比すると、原告商標一の要部は、独特の書体によるものであり、外観において被告標章2の要部と異なるところがあるものの、双方の要部は観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章2は類似するものと認められる。
原告商標二と被告標章2を対比すると、原告商標二の要部は、独特の書体によるものであり、外観において被告標章2の要部と異なるところがあるものの、双方の要部は観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章2は類似するものと認められる。
原告商標三と被告標章2を対比すると、原告商標三と被告標章2の要部は、いずれも毛筆により書かれたものであり、書体に若干の違いはあるものの、外観において類似するものと認められ、観念及び称呼も同じくするから、原告商標三と被告標章2は類似するものと認められる。
3(一) 被告標章3は、「筑後の国」という文字を毛筆による行書体により横書きし、行を改めて、その下に、「筑後の国」の各文字の四倍ほどの大きさの文字により、「寒梅」という文字を、毛筆による行書体により横書きしたものである。
被告標章3のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからして極めて目立つ部分であり、被告標章3に接した取引者需要者は、「筑後の国」という部分は捨象して、「寒梅」という部分によって商品を識別することが多いものと認められるから、「寒梅」という部分が被告標章3の要部であると解される。そうすると、被告標章3は、その要部により、寒梅すなわち寒中に咲く梅という観念を生じ、「かんばい」という称呼を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章3を対比すると、原告商標一の要部は、独特の書体であり、外観において被告標章3の要部と異なるところがあるものの、双方の要部は観念及び称呼を同じくするから、原告商標一と被告標章3は類似するものと認められる。
原告商標二と被告標章3を対比すると、原告商標二の要部は、独特の書体であり、外観において被告標章3の要部と異なるところがあるものの、双方の要部は観念及び称呼を同じくするから、原告商標二と被告標章3は類似するものと認められる。
原告商標三と被告標章3を対比すると、原告商標三と被告標章3の要部は、縦書き、横書きの違いがある上、書体にも若干の違いがあるものの、いずれも毛筆により書かれたものであり、少なくとも各文字ごとの外観は類似しており、観念及び称呼も同じくするから、原告商標三と被告標章3は類似するものと認められる。
4(一)(1) 被告標章4は、印影をかたどったものであり、ほぼ正方形の枠の中の右側に、篆書の小篆風の書体により、「筑後の国」という文字を一行に縦書きし、その左に、「筑後の国」の各文字の二倍ほどの大きさの小篆風の文字により、「寒梅」と縦書きしたものである。
(2) 原告は、被告標章4のうち、「寒梅」という部分は、文字の大きさからしても極めて目立つ部分であり、また、「筑後の国」という部分は、産地、販売地名を表示し、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、被告標章4の要部は、「寒梅」という部分であると主張する。
しかし、被告標章4は、全体がほぼ正方形の枠に囲まれていること、「筑後の国」という文字と「寒梅」という文字は、文字の大きさは違うものの、いずれも篆書の小篆風の同一書体により記載されていることから、被告標章4は、一つの印影をかたどったものであることは容易に認識することができ、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められる。
また、乙第一号証によると、日本酒の銘柄名には、地名が含まれているものが多くあり、その場合、それを販売している蔵元の多くは、その地に所在しているものと認められる。これは、日本酒については、一般に産地により味や品質が異なるものと認識されているため、その名称に地名を付して産地名を表わすことが行われているものと認められる。そうすると、日本酒の名称に地名が含まれている場合には、取引者需用者は、その地名は産地名を表わしていると認識し、その地名に着目するものと考えられるから、その地名の部分も自他商品の識別機能を果たしているものと認められ、「筑後の国」という部分も自他商品の識別機能を有するものと認められる。この点について、原告は、商標に含まれる地名部分が真実の産地を表示していないこともあると主張する。確かに、甲第三六号証の二、乙第一号証、第一〇号証、第二九号証によると、北海道の会社が指定商品を酒類とする「灘千歳鶴」という商標を登録している例や新潟県所在の蔵元が「加賀の井」という銘柄の日本酒を販売している例などがあり、また、被告も韓国産の日本酒を「筑後鷹」という名称で販売していることが認められる。しかし、右認定のとおり、日本酒の銘柄名に地名が含まれている場合、それを販売している蔵元の多くは、その地に所在しているのであって、右のような一部の例があるからといって、そのことは、日本酒の名称に地名が含まれている場合には取引者需用者はその地名に着目するとの右認定を覆すに足りるものではない。
なお、甲第四六号証ないし第六六号証、第七一号証及び弁論の全趣旨によると、原告は、原告商標三を付した「寒梅」という銘柄名の清酒を販売していること、この「寒梅」は、もともと埼玉県を中心に販売されていた、いわゆる「地酒」であったこと、日本各地の酒を紹介する本が発行されているが、右「寒梅」は、一〇冊以上のこのような本に取り上げられて紹介されたこと、週刊新潮、週刊文春、週刊現代等の週刊誌に「全国の蔵元が育む、美酒三六選」という二ページの広告が平成元年七月以降掲載されたが、右「寒梅」は、この広告に平成元年七月から平成八年六月までの間に延べ三一二回にわたって三六銘柄の一つとして掲載されたこと、このように本に紹介されたり広告を掲載した結果、右「寒梅」は全国的に知られるようになってきており、埼玉県や同県の近県以外でも販売されるようになってきていること、以上の各事実が認められる。以上のとおり、原告の販売している原告商標三を付した「寒梅」は全国的に知られるようになってきているものと認められるが、右「寒梅」が日本全国において広く知られているとまでは認められず、他に原告商標一ないし三が全国的に広く知られていたものというべき事情を認めるに足りる証拠はない。
また、乙第一、第二号証、第三号証の一ないし四、第二八号証及び弁論の全趣旨によると、寒梅をその銘柄名に含む清酒として最も有名なものは、新潟の石本酒造株式会社が販売している「越乃寒梅」であると認められるところ、甲第七八号証によると、漫画中のせりふにおいて、右「越乃寒梅」を「寒梅」と呼んでいる例があることが認められる。しかし、それのみで、右「越乃寒梅」が一般的に「寒梅」と呼ばれていることを認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。甲第八二、第八三号証、第八六号証によると、被告標章6が付された被告の製品が「寒梅パック」の名称で売られ、被告標章7及び8が付された被告の製品が「寒梅」の名称で売られていた例があることが認められる。しかし、それのみで、被告の製品が一般的に「寒梅」と呼ばれていることを認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。そして、他に、寒梅をその銘柄名に含む清酒が日常的に「寒梅」の名称で取引されている事実を認めるに足りる証拠はない。
以上述べたところを総合すると、被告標章4の「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできず、被告標章4の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
(3) そうすると、被告標章4は、外観としては、ほぼ正方形の枠に囲まれている部分全体を観察すべきである。また、被告標章4は、「ちくごのくにかんばい」という称呼を生じ、筑後の国の寒梅すなわち筑後の国において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章4を対比すると、原告商標一の要部と被告標章4は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章4は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章4を対比すると、原告商標二の要部と被告標章4は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章4は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章4を対比すると、両者は、外観、観念、称呼が異なるから、類似するとは認められない。
5(一) 被告標章5は、「筑後の国寒梅」という文字を、等しい大きさの明朝体の活字により、「筑後の国」と「寒梅」との間にほぼ一文字分の間隔を空けて一行に横書きしたものである。
原告は、被告標章5のうち、「筑後の国」という部分は、自他商品の識別機能を有しない部分であり、「寒梅」という部分が要部であると主張する。しかし、被告標章5は、「筑後の国」と「寒梅」との間にほぼ一文字分の間隔が空けられているものの、等しい大きさの明朝体の活字により、一行に横書きされており、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められ、また、右4(一)(2)で述べた理由により、「筑後の国」という部分は自他商品の識別機能を有し、「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできないから、被告標章5の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
そうすると、被告標章5は、外観としては、その全体を観察すべきである。また、被告標章5は、「ちくごのくにかんばい」という称呼を生じ、筑後の国の寒梅すなわち筑後の国において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章5を対比すると、原告商標一の要部と被告標章5は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章5は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章5を対比すると、原告商標二の要部と被告標章5は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章5は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章5を対比すると、両者は外観、観念、称呼が異なるから、類似するとは認められない。
6(一) 被告標章6は、「筑後の寒梅」という文字を、毛筆により、ほぼ等しい大きさの行書体により、一行に横書きしたものである。
原告は、被告標章6のうち、「筑後の」という部分は、自他商品の識別機能を有しない部分であり、「寒梅」という部分が要部であると主張する。しかし、被告標章6は、毛筆により、ほぼ等しい大きさの行書体により、一行に縦書きしたものであり、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められ、また、「筑後の」という部分は、右4(一)(2)において、「筑後の国」という部分について述べたと同様の理由により、自他商品の識別機能を有し、「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできないから、被告標章6の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
そうすると、被告標章6は、外観としては、その全体を観察すべきである。また、被告標章6は、「ちくごのかんばい」という称呼を生じ、筑後の寒梅すなわち筑後において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章6を対比すると、原告商標一の要部と被告標章6は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章6は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章6を対比すると、原告商標二の要部と被告標章6は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章6は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章6を対比すると、両者は外観、称呼、観念が異なるから、類似するとは認められない。
7(一) 被告標章7は、「筑後の」という文字を毛筆による行書体により縦書きし、その左に、行を改めて、若干下の位置から、「筑後の」という文字と同じ大きさの文字により、「寒梅」という文字を、毛筆による行書体により縦書きしたものである。
原告は、被告標章7のうち、「筑後の」という部分は、自他商品の識別機能を有しない部分であり、「寒梅」という部分が要部であると主張する。しかし、被告標章7は、二行に分けて記載されているものの、文字はすべて同じ大きさの毛筆による行書体により書かれており、「筑後の」という文字と「寒梅」という文字は近接して書かれているから、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められ、また、「筑後の」という部分は、右4(一)(2)において述べたと同様の理由により、自他商品の識別機能を有し、「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできないから、被告標章7の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
そうすると、被告標章7は、外観としては、その全体を観察すべきである。また、被告標章7は、「ちくごのかんばい」という称呼を生じ、筑後の寒梅すなわち筑後において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章7を対比すると、原告商標一の要部と被告標章7は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章7は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章7を対比すると、原告商標二の要部と被告標章7は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章7は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章7を対比すると、両者は外観、称呼、観念が異なるから、類似するとは認められない。
8(一) 被告標章8は、「筑後の寒梅」という文字を、毛筆により、ほぼ等しい大きさの行書体により、一行に横書きしたものである。
原告は、被告標章8のうち、「筑後の」という部分は、自他商品の識別機能を有しない部分であり、「寒梅」という部分が要部であると主張する。しかし、被告標章8は、毛筆により、ほぼ等しい大きさの行書体により、一行に横書きしたものであり、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められ、また、「筑後の」という部分は、右4(一)(2)において述べたと同様の理由により、自他商品の識別機能を有し、「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできないから、被告標章8の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
そうすると、被告標章8は、外観としては、その全体を観察すべきである。また、被告標章8は、「ちくごのかんばい」という称呼を生じ、筑後の寒梅すなわち筑後において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章8を対比すると、原告商標一の要部と被告標章8は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章8は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章8を対比すると、原告商標二の要部と被告標章8は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章8は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章8を対比すると、両者は外観、称呼、観念が異なるから、類似するとは認められない。
9(一) 被告標章9は、印影をかたどったものであり、ほぼ正方形の枠の中の右側に、篆書の小篆風の書体により、「筑後の」という文字を一行に縦書きし、その左に、「筑後の」の各文字よりやや大きめの小篆風の文字により「寒梅」と縦書きしたものである。
原告は、被告標章9のうち、「筑後の」という部分は、自他商品の識別機能を有しない部分であるから、「寒梅」という部分が要部であると主張する。しかし、被告標章9は、全体がほぼ正方形の枠に囲まれていること、「筑後の」という文字と「寒梅」という文字は、いずれも篆書の小篆風の同一書体により記載されていることから、被告標章9は、一つの印影をかたどったものであることは容易に認識することができ、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められ、また、「筑後の」という部分は、右4(一)(2)において述べたと同様の理由により、自他商品の識別機能を有し、「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできないから、被告標章9の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
そうすると、被告標章9は、外観としては、その全体を観察すべきである。また、被告標章9は、「ちくごのかんばい」という称呼を生じ、筑後の寒梅すなわち筑後において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章9を対比すると、原告商標一の要部と被告標章9は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章9は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章9を対比すると、原告商標二の要部と被告標章9は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章9は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章9を対比すると、両者は外観、称呼、観念が異なるから、類似するとは認められない。
10(一) 被告標章10は、「筑後の寒梅」という文字を、等しい大きさの明朝体の活字により、一行に横書きしたものである。
原告は、被告標章10のうち、「筑後の」という部分は、自他商品の識別機能を有しない部分であり、「寒梅」という部分が要部であると主張する。しかし、被告標章10は、等しい大きさの明朝体の活字により、一行に横書きしたものであるから、全体が一つのまとまりのある標章として認識されるものと認められ、また、「筑後の」という部分は、右4(一)(2)において述べたと同様の理由により、自他商品の識別機能を有し、「寒梅」の部分のみが要部であると解することはできないから、被告標章10の全体が自他商品の識別機能を有するものというべきである。
そうすると、被告標章10は、外観としては、その全体を観察すべきである。また、被告標章10は、「ちくごのかんばい」という称呼を生じ、筑後の寒梅すなわち筑後において寒中に咲く梅という観念を生じるものと認められる。
(二) 原告商標一と被告標章10を対比すると、原告商標一の要部と被告標章10は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標一と被告標章10は、類似するとは認められない。
原告商標二と被告標章10を対比すると、原告商標二の要部と被告標章10は、外観、観念、称呼が異なるから、原告商標二と被告標章10は、類似するとは認められない。
原告商標三と被告標章10を対比すると、両者は外観、称呼、観念が異なるから、類似するとは認められない。
11 以上によれば、被告標章1ないし3は、いずれも、原告商標一ないし三のそれぞれに類似するものと認められ、被告標章4ないし10は、原告商標一ないし三のいずれとも類似しないものと認められる。
四 被告が、被告標章1ないし3を付した清酒を現在も販売していることを認めるに足りる証拠はないが、被告が以前に被告標章1ないし3を付した清酒を販売していたことは、当事者間に争いがなく、この争いがない事実に乙第二九号証と弁論の全趣旨を総合すると、被告は、被告標章1ないし3を、清酒又はその包装に付すこと、清酒の包装に被告標章1ないし3を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入すること、清酒に関する広告、定価表又は取引書類に被告標章1ないし3の標章を付して展示し、又は頒布することの各行為を行うおそれがあるものと認められる。
しかし、被告が、模造清酒や清酒以外の日本酒についてまで、右の各行為を行うおそれがあるとは認められない。
五1 被告が、平成二年一〇月から平成七年二月一〇日までの間に、被告標章1ないし3の一又は複数を付した清酒を販売し、その販売額が七億三九四〇万二〇〇〇円であることは当事者間に争いがないところ、この被告の行為は、原告の商標権を侵害する行為である。
2(一) 前記三4(一)(2)認定のとおり、原告は、原告商標三を付した清酒を販売しているから、被告の右商標権侵害行為によって損害を被ったものと認められ、その損害額は、被告が右行為によって得た利益の額から推定することができるが、被告の右行為による原告の損害額と推定することができるのは、被告の右行為と相当因果関係のある利益の額に限られる。
(二) そこで、被告の右行為と相当因果関係のある利益の額について判断する。
(1) 甲第八一号証(平成七年三月「清酒製造業の概況」国税庁課税部酒税課)によると、清酒製造業における平均営業利益率は、3.8パーセントであることが認められるところ、被告の利益率がそれを下回ることについての主張立証は全くないから、被告は、被告標章1ないし3を付した清酒を販売したことにより、少なくとも販売額の3.8パーセントに当たる利益を得たものと認められる。したがって、被告が、平成二年一〇月から平成七年二月一〇日までの間に被告標章1ないし3を付した清酒を販売したことによって得た利益の額は、二八〇九万七二七六円であると認められる。
(2) 甲第七号証、第七一号証によると、被告は、被告標章1を清酒の一升瓶のラベルに、「本醸造」、「純米」又は「吟醸」という文字とともに付したり、清酒の一升瓶の上部のラベルに被告標章3を付し下部のラベルに被告標章2を付したり、清酒の紙パックの側面三箇所に被告標章2を付したりしていたものと認められ、このような使用態様からすると、被告の製品においては、被告標章1ないし3は、よく目立つ位置に付けられており、これらの製品の売上げに寄与したものと認められる。しかし、乙第一五号証、第二五、第二六号証によると、被告の売上高は、平成二年度が二億七五七八万六〇〇〇円、平成三年度が三億九九二二万五〇〇〇円、平成四年度が七億六一〇八万六〇〇〇円、平成五年度が一一億六五二〇万六〇〇〇円、平成六年度が二〇億八一五九万円、平成七年度が三〇億六八七六万八〇〇〇円であって、平成二年から平成七年にかけて急激に売上げを伸ばしており、被告の出荷量は、平成七年には、全国三〇位になったことが認められるのであるから、このような被告の販売力も、被告標章1ないし3を付した清酒の販売に寄与したものと認められ、前記三4(一)(2)認定の原告商標三を付した原告製品の周知度をも総合すると、被告の商標権侵害行為と相当因果関係のある利益の額は、右1の販売額の二パーセントに当たる一四七八万八〇四〇円と認めることが相当である。
3 原告商標一ないし三の使用許諾料相当額は、右2の利益の額等既に認定した諸事情を考慮すると、販売額の二パーセントを上回ることはないものと認められる。
六 よって、本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官森義之 裁判官榎戸道也 裁判官中平健)
別紙原告商標目録一〜三<省略>
別紙被告標章目録1〜10<省略>